植物工場の黒字化は難しい?

少し前になりますが、日本政策金融公庫の平成 29 年度下半期消費者動向調査において、植物工場で栽培される野菜に関する意識調査結果が公表されています。

主なポイントとしては、
 植物工場で栽培される野菜を「購入したことがある」割合は初の20%超へ増加
 「ほぼ同じ価格または割高でも植物工場で栽培される野菜を選ぶ」と回答した割合が4割超へ増加
 「おいしさ」や「栄養価」については植物工場で栽培された野菜より、通常の栽培方法による野菜の方が良いイメージを有すというものです。

 

植物工場の野菜を購入したことのある割合が意外と少ないな、という印象です。厳密な定義(※)からはずれるのかもしれませんが、もやしやカイワレ大根、きのこ類なんかも工場生産という意味では似ているような気もするので、個人的には抵抗感は全くありません。また、光の調整をすることで栄養価を高めることも可能ですし、筑波大学の研究ではサニーレタスの苦みに関しては、通常の栽培方法よりも少なくなるという結果も出されており、消費者が持っているイメージと実態とがまだ乖離している部分がありそうです。

 

植物工場には、①天候に左右されない生産が可能、②病原菌や害虫の侵入が少なく農薬の使用が不要、③土壌によらず、養液栽培することにより、連作障害を起こさずに連作が可能、④歩留まりが高く、食品残渣を低減させることが可能、などのメリットから、ここ10年程度で建設件数が増加し、約400近い植物工場が建設されているようです。

 

メリットの多い植物工場ですが、露地栽培と比較し、設備投資や光熱費が嵩むことから、黒字経営は難しく、大手電機メーカーが植物工場に参入後短期間で撤退しているケースや、植物工場を展開している代表的な企業が民事再生を申し立てるなど、一筋縄ではいかない運営状況となっています。

最近においては、約40%の植物工場が黒字化を果たしているとされていますが、各種設備等の償却期間が 5~14 年であるため、稼働期間の長い野菜工場においては減価償却費が減少し、黒字転換を果たしているという側面もあり、新規参入してすぐの黒字化というのはハードルが高そうです(特に太陽光に頼らない人口光による植物工場の黒字化は難しいようです)。

 

経営の難しさという意味では、生産品目がまだ少ないことも一つの原因といて挙げられます。特に人口光型においては、コスト高を補うために生産日数の短いレタス類の栽培を行う植物工場が多いのですが、他社製品との差別化が難しいうえに、工場で大量に生産できても安定的に販売する先を確保できていない、というケースも多いようです。

 

植物工場が今後も発展していくためには、コスト削減や消費者の植物工場への認知度・理解度を高めるほか、生産品目の多様化による差別化や、高度な生産管理技術により機能性食品等として付加価値を向上させる取り組みなどが期待されます。生産物ではなくシステム面に注目すれば、雨が少なく野菜類を輸入に頼っている中東地域等への植物工場システムの輸出展開なども収益性を高めるための取組になりそうです。

 

さて、生産品目の差別化、という観点では、個人的には、キャベツや白菜などアブラナ科の野菜の生産ができるようになることを期待します。生育日数が長いことや結球化が難しいため、植物工場ではなかなか生産できないようですが、虫がつきやすいというアブラナ科の性質を考えると、植物工場の強みと合致する部分が大いにありそうです(ちなみに、レタスは虫がつきにくいキク科の植物です。おんなじ科だと思っていた方は、興味があれば、キャベツの花とレタスの花をググってみてください。全く違う種類なんだなと実感できます)。

 

(※)今では一般的な言葉になりました「植物工場」ですが、経済産業省の資料では、「施設内で、植物の生育に必要な環境を、LED照明や空調、養液供給等により人工的に制御し、季節を問わず連続的に生産できるシステム」とされています。

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